幼保小接続を考える 子どもたちの学びのストーリーを紡ぐ スタートカリキュラム

2025.2.19

幼保小接続を考える

子どもたちの学びのストーリーを紡ぐ スタートカリキュラム(前編)

安藤浩太(昭島市立光華小学校教諭)

吉永安里(國學院大學教授)

もうすぐ新年度が始まります! この時期は新1年生を迎えるための準備を各学校で進めているかと思います。今回は、1年生の担任の視点から安藤浩太(あんどうこうた)先生、幼児教育の視点から吉永安里(よしながあさと)先生、お二人をお迎えして対談を行いました。前編では、入学前後の子どもたちの様子と、入学してからの1週間のカリキュラムの工夫についてお届けします。

―― 最初に、新1年生の子どもたちはどんな気持ち、どんな状態で入学してくるのか教えてください。

吉永:年長組の子どもたちは、早い時期から「来年は1年生になるんだ!」という小学校への期待感でいっぱいです。年長さんとして、いちばん上の学年になって、下の学年の子たちを助けてあげたりお手本になったりしたいという思いもあります。最近はランドセルの準備が早まっていることも関係があるでしょう。「こういうのを買ったよ」「何色にするんだ」という話から、徐々に、ランドセルに何を入れるか、学校で何をするのかという話が出てきます。そして、6〜7月頃になると、子どもたちは小学校ごっこを始めます。小学校は、チャイムが鳴って、先生が黒板を使って教えてくれる場所というイメージを持っているようですね。

ところが、年長さんの後半になって、いざ、就学時健診などでほかの園の子たちと出会うと、新しい集団の中に入る不安も出てきます。新しい友達と仲良くできるか、今まで仲の良かった友達とクラスが離れてしまうのではないかと心配になる子もいるんです。これは子どもたちだけではなく、保護者も同様ですね。

でも、最近は幼保小の交流会が各地で行われています。そういうところで小学校のお兄さんお姉さんに会って、自分たちが歓迎されているんだ、小学校って楽しそうだなというイメージを持つことで、不安が和らぎ、期待感が高まっていくんだと思います。

安藤:小学校に入学してからの子どもたちを見ていると、吉永先生がおっしゃったように、期待と不安が入り混じっていると感じます。幼稚園や保育所等(以下、園)での経験に自信を持っている子も多いですね。「園ではこんなことをしてきたよ」「これが楽しかったんだ」とさまざまな活動の中でつぶやくところに見て取れます。その経験を土台にして「先生、こういうことがしてみたい!」「自分は足し算ができるよ!」など、やりたいことをたくさん話してくれるところに期待感が見えますね。

一方で、保護者と離れることや、園とは生活の仕組みも先生との距離感も違う、さらに同じ園からの友達が一人もいない…そういったことが不安につながります。

―― そんな期待感と不安感を持った子どもたちが入学してくる4月、カリキュラムを考えるときに大切なのはどんなことですか?

吉永:カリキュラムの内容もですが、まずは子どもたちの生活環境が重要だと思います。幼児期は、子どもが自由に動き回れたり、先生が近くに来てくれたりする、身体的な自由感がある環境でしたよね。翻って、小学校では「椅子に座りましょう」と言われて、子どもたちは自由に立ち歩けないと思ってしまうようです。そうすると、園では先生が近くにいたのが、教室も大きくなる、先生との間にはたくさんの机と椅子がある…手を挙げて大きな声で発言しないと先生に届かないという状況になってしまうんですね。先生との物理的、心理的距離感ができてしまうんです。

この時期はトイレの失敗も多いのですが、小学1年生の発達段階だと、手を挙げて「トイレに行きたい」と言うのは恥ずかしいし、かといって先生の近くに行って言うことも難しい。だから、子どもにとって表現の自由度の高い環境構成の工夫と、人との親密で安心できる関係性を築いていくことがだいじなんですね。

吉永先生 吉永先生

安藤:おっしゃるとおりです。実態を受けて、最初の1週間、1ヶ月は、子どもたちの安心や安全に十二分に配慮している先生が多いですね。特にスタートカリキュラムや架け橋期が注目されるようになってからは、机の配置に代表されるような環境構成も大きく変わりました。私のクラスでは、机は一斉一律の前向きでなく、グループにしたうえで円形に配置して、真ん中にじゅうたんを敷くといった工夫をすることが多いです。そうすると、先生と子どもが机を挟んで1対1で対面する硬直的な関係ではなくなりますし、子どもの身体的な自由感も生まれ、友達と緩やかに自然とつながっていきます。そして、それが安心感を生んでいきます。

あと、この時期って先生はものすごく忙しいし、子どもたちが下校するまで安全に過ごせるようにしないといけない。でも、そういった中でも一人一人の様子をよく見て、笑顔で何かしらの関わりをするようにしています。そうすることで、子どもたちは場所や先生への安心感を育んでいけるんですね。

吉永:それは教員の援助の部分ですね。環境構成との共通点として、一人一人の子どもの実態を把握することがすごくだいじなんですよね。一人一人に声をかけて、どんなことが好きなのか、どんな性格なのかと向き合う対面の関係と、子どもが何かやっているときに横にいて、同じ目線で同じものを見つめる寄り添う関係との両方が必要です。そういう関わりの中で、どんなことをやりたいのか、どんなことを不安に思っているのかが見えてきますし、まさにそこにカリキュラムを組む際のヒントがあります。

例えば、「給食に苦手な食べ物があったらどうしよう」という不安がある子がいたときに、「〇〇ちゃんは給食に不安があるみたいなんだけど、どう解決していけばいいかな?」と不安に寄り添うような形で話し合いの題材にしてみるとか、校庭に大きい絵を描いてみたいという声が上がったときに、「それじゃあ、今日の図工という授業でやってみようか」というふうに、教科の学びや協働的な学びにつないでいきます。小学校の最初の頃は、子どもが幼児期から育んできた興味・関心、経験してきた遊びなどにヒントがたくさんありますね。

安藤:子どもたちには「余白」がだいじなんですね。先生が全てを手取り足取り教えてしまっては、子どもたちの考えや思いが行動に表れてきません。

私は、余白を大切にしてスタートカリキュラムの実践をするようにしているのですが、1日を3~4つの時間で区切ることが多いです。初日は1時間目〜2時間目の半分くらいの時間を充てて、子どもの実態に合わせて、「のんびりタイム」「仲良しタイム(みんなが仲良くなるための活動を行う時間)」というものを作っています。「のんびりタイム」では、登校してから自分のペースで支度をさせて、その後は子どもたち自身の興味・関心によって過ごせるような環境設定をしています。

支度のときに私が細かく指示をするようなことはしません。手順書を作って最初に説明した後は、それを見ながら進めてもらったり、上級生や友達に助けてもらいながら進めてもらったりします。支度が終わってちょっとゆっくりしたくなったら、教室の真ん中のじゅうたんスペースで寝転がったりしても構わないんです。ほかにも、園の先生からの要録や引き継ぎ書を読んで、今年の1年生がどんなことに興味があったのかを知って、折り紙、お手玉など、置いておくものを考えておきます。本が好きな子が多かったら、絵本コーナーを作っておくとか、数字に興味を持っている子が多かったら、メジャーやはかりを置いておくなどですね。1種類ではなく、複数用意しておきます。

―― 確かに、小学校生活に不安もある子どもたちにとって、まずは環境から安心できるように整えていくのは重要なことですね。

安藤:この時期は自分のクラスだけではなく、学年の中で教室を行き来できるようにするのもいいですよ。子どもにとっては自分で選び取れるよさがありますし、1組は絵本スペース、2組は音楽スペースを作るといったときに、準備が分担できるという先生側にとってのよさもあります。すぐに横になったり、誰かと過ごしたり、子どもを観察していると余白の時間にその子自身の興味・関心が表れます。

それから、特に最初の3日間は教室の環境づくりに力を入れます。のんびりタイムや仲良しタイムの時間を使って「先生はこんなものを用意してみたんだけど」と投げかけると、子どもが集まって「これを置いてよ!」「こんなことをしてみたい!」と対話が始まります。園ではそういうことが当たり前だったと思うんですよね。まず、身近なところから不安をなくす→自分の生活スペースを作る→そこからさらに教科、ほかの教室、学校探検へ学習を広げていきます。

安藤先生 安藤先生

吉永:先生側が一方的に選択肢を用意してその中から選び取らせるだけでなく、子どもたちが創造できる余白を残しておくことは重要ですよね。一方で、何もないところに放り込んで、「何がしたい? 欲しいものはある?」って聞かれるのも、答えるのが難しいんです。だから、安藤先生の実践のような、「園からみんなの好きなものを聞いてきたよ」という、子どもたちを受け止める準備をしたうえで、子どもたちの言葉や思いから広げていくということが大切なんです。子どもたちに「どうしようか」と投げかけていっしょに考えていく部分、先ほど言ったような、横に立って同じものを見つめる視点ですね。こういう視点で考えていくと、スタートカリキュラムの時期が終わってもその本質は授業の中に根付いてくると思います。

安藤:本当にそうですね。スタカリ期には子どもたちの思いや願いを大切にした活動をしている学校がどんどん増えていて、すごくいいなと思います。だから、教科書を使った教科の学習が本格的に始まったときにも、そういった子どもの思いや願いを大切にしながら展開していきたいし、それがスタートカリキュラムの本質ですよね。

吉永:子どもが今何を見ているのか、子どもの思いをどう広げて学習内容につなげていくか、あるいは人とのつながりをどう広げていくかを考えて展開する必要があります。そのためにどういう環境設定がよいかを見極めて学習をデザインすることが、スタートカリキュラムで大切なことです。それを踏まえると、教科書の単元に入ってももっと別の発想ができそうですよね。幼児期に親しんだ遊びを取り入れるとしても、その遊びにはどんな教科的要素があるのかをよく教材分析する必要がありますね。

安藤:スタートカリキュラムといっても特別なことではなく、カリキュラムを考えることですものね。環境構成も一つのきっかけにしながら、子どもたちの実態に応じて、どんな資質・能力を身につけたいのか、そのためにどんな環境が必要なのか。こちらが返すものの中に、教科の見方・考え方や学習用語をうまく絡ませるようにして、教科に緩やかにつながっていくとよいなと思います。

後編では、子どもたちと1年間過ごすうえで大切なことは何かを伺います。他学年にも通じる内容をお届けしますので、お楽しみに!

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