外国につながる子どもへの日本語指導を考える 「リライト教材」のすすめ 第2回

2024.12.11

外国につながる子どもへの日本語指導を考える

「リライト教材」のすすめ 第2回

こくごスタジオ編集部

外国にルーツを持つ子どもの増加に伴い、「日本語指導」の必要性についてニュースなどでも耳にする機会が増えてきました。第1回では、日本語指導で使われるさまざまな教材のうち、「リライト教材」についてご紹介しました。第2回では、東京都の板橋区立板橋第八小学校の先生に、日本語学級での取り組みについて伺いました。

板橋第八小学校の日本語学級ってどんなところ?

● 児童は、在籍している学校で勉強しながら、週2時間通級。

● 児童数は60名。そのうち、45名が近隣の小学校から通う。(2024年10月時点)

● 通級期間は原則として2年以内。

● 来日直後の児童から、教科書をそのまま使って学習を進める児童までさまざま。

● 児童の母語で多いのは中国語。ほかにネパール語、日本語、ベンガル語、ウズベク語、フィリピン語など。

吉田 彩子 先生 吉田 彩子 先生

板橋第八小学校が4校目で、在籍2年目。
昨年度は学級担任。2校目のときに日本語指導を3年間経験。

衛藤 景太 先生 衛藤 景太 先生

板橋第八小学校が初任校で、日本語指導は通算7年目。

個別に、子どもの実態に合わせて

―― 日本語学級では、どのような授業をされていますか?

(吉田先生)
基本的に1対1の個別指導をしていますが、時間割の関係や単元によっては児童2、3人で行うこともあります。算数などを教えることもありますが、子どもにとって理解が難しい教科である国語に多くの時間を使います。個別に、それぞれの子どもの実態に合わせて、指導内容を考えています。国語では、自分で作ったリライト教材も使って授業をしています。

―― 先生がたがリライト教材を作られているんですね。どのように作成されているのでしょうか?

(衛藤先生)
児童の日本語習熟度だけでなく、指導内容に合わせて作成しています。「心情を考える練習をする」「あらすじを話せるようにする」「要約の書き方を身につける」など、その単元で取り組みたい国語の指導内容があるので、そこに時間をとれるように、文章自体はやさしめに作ることが多いです。

―― 指導内容から逆算してリライト教材を作っていらっしゃるんですね。

(吉田先生)
例えば、説明文の「くらしの中の和と洋」(東京書籍・4年生)は、「すごし方」「使い方」「よさ」といったキーワードを押さえ、物事を考えるときに観点を立てることを学ぶ教材だと思います。そのため、リライト文では、この段落では「すごし方」という観点で考えている、この段落では「使い方」という観点で考えている、といった段落ごとの構成が分かるように、教科書の原文にあるキーワードを生かすようにしています。

このリライト教材を使った1回目の授業では、繰り返して登場する「ちがいます」に線を引かせて注目させることで、和室と洋室では「ゆかと家具」「すごし方」「使い方」がちがうと書いてあることを、まずは押さえました。そして、「すごし方」について書かれている段落と「使い方」について書かれている段落がその後にあるということを確認していきました。

「くらしの中の和と洋」のリライト教材(イメージ図) 「くらしの中の和と洋」のリライト教材(イメージ図)

1回目の授業ではキーワードを見つけて印を付けるところまでです。2回目の授業で、各段落の内容に入っていくときに、キーワードの意味を説明して、内容を捉えていくことになります。

―― 説明文の例を伺いましたが、物語の場合は、どのような点に気をつけてリライト教材を作成されていますか?

(吉田先生)
心情や情景の読み取りのポイントになる表現は原文を生かすようにしていますが、例えば理解が難しそうな心情表現は、分かりやすい言葉や、心情を考えるヒントになりそうな表現に書き換えてしまうこともあります。

ただ、物語文のリライトは難しいなあ…と感じています。特に、昔話やファンタジー作品などはリライトすると世界観が伝わりにくくなるのが悩みどころです。ある程度読める児童の場合は、原文を削るだけのこともあります。

児童に合わせた教材作りの工夫は、ほかにも…

● 児童の習熟度に合わせて振り仮名を付ける。上の学年になるほど、熟語の音訓読みが難しくなるため、ルビが多めになる。

● 読みやすいように分かち書きにする。

● 母語が漢字圏の児童には、漢字表記のままにしたり、教科書上では平仮名表記の語をあえて漢字で表記したりすることもある。

● 在籍学級で行う学習活動を想定してリライトする。文章が長い教材では、学習活動や大意の把握に影響がなさそうな部分は削ることもある。一方、学習活動でキーワードになる言葉や文は、難易度が高いものであっても原文を生かすようにする。

● 説明文では、「まず」「次に」など、論の流れが分かる言葉は削らず原文を生かす。

● オノマトペは難しいので、特に動作化できないオノマトペは削る。

● リライト教材の枚数はなるべく少なくして負担感を減らす。

(衛藤先生)
文の書き換えだけでなく、リライト教材に使うイラストも工夫しています。

例えば、説明文の「ビーバーの大工事」(東京書籍・2年生)の最後に「ビーバーが ダムを 作るのは、それで 川の 水を せき止めて みずうみを 作り、その みずうみの 中に、てきに おそわれない あんぜんな すを 作る ためなのです。」と書かれているのですが、文章だけでは理解が難しい子もいます。そこで、ビーバーの巣の様子を描いた教科書のイラストに、ビーバーを襲う敵に相当する動物の写真を追加してみました。そうすることで、子どもといっしょに敵の動物の写真を指差ししながら「泳ぐの上手じゃない」などと確認していき、ビーバーが湖の中に巣を作る理由を考えることができました。

(吉田先生)
やっぱり絵はだいじですよね。写真や、図で示すのも効果的です。


学年相応が意欲につながる

―― リライト教材を使う意義はどこにあるとお考えですか?

(吉田先生)
児童の意欲という面で重要だと思います。下の学年のものを使うよりも、同じ学年のもののリライト教材のほうが、意欲を持って子どもたちが学ぶことができる。リライトの価値はまさにそこにあると思っています。

日本に来たばかりで日本語をほとんど読めない3年生の児童の授業で、1年生の教材を扱ったことがあるのですが、「これ何年生?」って言われてしまいました。

(衛藤先生)
自分は教え始めた頃に決定的な経験がありました。日本語はあまり話せない子に、語彙を増やしてほしいと思って絵本を使ったんです。そのときその子が、「先生、ぼく赤ちゃんじゃない」と日本語で一生懸命伝えてきたんです。その子には生まれたばかりの下の子がいたので、下の子が読んでいるものと同じだと思ったのでしょう。申し訳ないことをしてしまったなあと思いました。子どもはそういうところに敏感なんだと思います。

衛藤先生 衛藤先生

(吉田先生)
日本語学級に通う子どもたちは、日本語が分からないからということで、いろんな場面で小さい子どものような扱いをされてしまう経験があるんです。周りの子どもたちが優しさから、小さい子を手伝うみたいに助けてあげてしまうんですね。そういうのも、子どものプライドを傷つけることがあります。だから、学年相応というのはすごくだいじなんです。

―― 国語の学習と、日本語指導のバランスについて先生の考えを教えてください。

(吉田先生)
個別のケースで違いますが、単元ごとに設定されている国語の目標を意識して活動を設定します。そのうえで、教材文をリライトでやさしくして日本語の負担を軽減したり、逆に日本語の表現や文型を補足したりするようにしています。

ただ、まだあまり国語の学習を積み重ねてきていない上の学年の児童の場合、いきなり学年相応の国語の目標には取り組めないので、文章は該当学年のものをリライトして使うけれど、国語の学習活動としては下学年のものを行うこともあります。国語の教科としての指導内容の系統性は意識しますね。

例えば先ほど例に挙げた説明文の「くらしの中の和と洋」では、和室や洋室のことが分からなくてもよいと考えています。段落に分かれることや、意味のまとまりで意味段落があるということを押さえることができれば、次に説明文に出会ったときにそういった見方ができるようになります。そういう積み重ねを意識しています。系統性の積み重ねがないまま、上の学年に進んでしまうと、例えば低学年で学習しているはずの主語・述語の見つけ方が実は分かっていないということが起きます。そのときには、相応の学年の教材を使って、主語・述語をやります。なかなか難しいですが、国語の積み重ねで足りていないところを補いながら進めていくのが理想だと思っています。

―― ほかに、ふだんの授業で心がけていらっしゃることはありますか?

(吉田先生)
児童にとって意味があるかどうか、という点を意識しています。ここでの意味があるというのは、「友達といるときに子どもが実際に使えそう」といった、日常生活ですぐに役に立つということです。子どもが日常で使わない表現にはあまり時間はかけず、身の回りで起こりそうなことを想定して、学校の授業についていくのに必要そうなことに焦点を当てるようにしています。

休憩時間にはボードゲームをして遊ぶ時間を作ることもあります。そこで「グーとパーで分かれましょ」をする場面が出てくると、学校で友達と遊ぶときにも知っている状態でいられますよね。ほかにも、ちょっとしたことですが、「どうぞ」って言って渡すんだよ、ということや、「ありがとう」って言って受け取るんだよ、ということも教えるようにしています。「友達と仲良くしたい」「友達と楽しく過ごしたい」というのがおおむね全ての子の願いなので、そこはだいじにしています。もちろん勉強もするんですけどね。

(衛藤先生)
子どものいちばんの世界は「自分のクラス(在籍学級)」と考えるようにしています。ここ(日本語学級)は、週に1回2回のあくまでもサポートの場で、できることを少しでも増やしてあげることが役目だと思っています。

また、自分の考えを持つ場面を授業のどこに取り入れられるかということは心がけています。


子どもの成長が目に見える

―― 日本語学級での先生のやりがいや、楽しいと感じることを聞かせてください。

(吉田先生)
子どもの成長が目に見えて分かることだと思います。先週より今週のほうができることが増えていく姿がよく分かるので、それがやりがいですね。本校の日本語学級は個別指導であることもあって、子どもたちの成長がより実感できます。

先週言えなかった言葉を急に使うようになることがあるんです。休憩時間の遊びのときに「やばっ」とか言うんですよ(笑)。そういうのを聞くと「学校でけっこう友達と遊べているんだなあ」と感じられてうれしいです。

(衛藤先生)
教材を開発するとか、教材を自分のアイデアで作れるというのは恵まれた場だなあと思います。教材のブラッシュアップができるので自分の指導力も上げられていると感じています。

日本語学級は、教師の醍醐味だっていう先生もいるくらいなんです。子どもが目標を持って通って、それに応えるような学習をいっしょにして、子どもが伸びていく。規定で2年間と決まってはいるのですが、2年間の中でそれが見られるのは貴重な環境だと思います。楽しいですよ、本当に。

―― 教室に日本語指導が必要な子どもがいて、その支援に悩まれている先生もいらっしゃるのではないかと思います。そういった先生に伝えたいことはありますか?

(吉田先生)
たとえ日本語指導の知識や経験があっても、担任の立場からは、できることが限られていることは私自身痛感しています。

特別なことができなくても、いっしょに遊ぶだけでも子どもは学んでいくので、いっしょにいる時間を作ってもらえれば十分かなあと思います。

吉田先生 吉田先生

さらに言うなら、違う文化から来たということに関心を持って、子どもの気持ちや文化的背景を理解しようと寄り添うことがだいじなのではないでしょうか。教室で、「この子、何でこんなことするんだろう?」って思う場面があると思うんです。例えば、座り方とか。日本の学校文化は特殊なルールがいっぱいあるので、それに適応するだけでも難しい。結局は日本のやり方を教えることになるかもしれませんが、「何で違うことをするのか?」ということに目を向けたいと思っています。いきなり注意するのではなく、例えば「◯◯(※住んでいた所など)ではこうしてたの?」って聞いてあげるとか、そういう言い方ができるといいなあと思います。

子どもは、先生が好きっていうことが学校に通う意味になるし、モチベーションになります。何かやらなきゃって思うかもしれませんが、突き詰めれば、優しく接して、楽しく過ごしてもらえたら、それで十分だと思っています。

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