
2024.8.7
新教科書特集
中学校の新教科書特集、第8回では、前回に引き続き、「ちばさと」の愛称で親しまれる歌人であり、「新編 新しい国語」の編集協力者でもある千葉聡先生に、短歌の指導のポイントなどについておききしました。
―― 千葉先生はどのようにして短歌のご授業をされているんでしょうか。
授業で最初に短歌を扱うときは、生徒に「今から言うことを静かに聞いてほしい」と前置きしたうえで、岡野大嗣の〈もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい〉を紹介するんです。そうすると、生徒たちは笑うんですよ。で、「何で笑うの?」とまじめに聞いてみると、「『もういやだ死にたい』って言いながら『生き返りたい』って言ってる」って返ってくるんです。そこから、短歌についての解釈が広がっていくんですよね。
ほかにも、
―― 短歌の指導に悩まれている先生もいらっしゃると思いますが、指導のポイントはありますか。
何でもいいから三首紹介してみて、「どれでもいいから一首選んで、短い感想を書いてみようか」って投げてみる。そうすると、中学生は発想が豊かだから、何でも書けてしまうんですよね。先ほどの岡野大嗣の歌にしても、「みんなで読んだときには楽しい歌に思えたけど、実はすごく皮肉な歌に思える」とか、「『もういやだ死にたい』というのがドラマの言葉っぽい」とか、生徒自身の世界観が見えるような感想を書いてくれるんです。そういうのを集めて紹介するだけでも、授業の入り口になると思います。だから、指導される先生が、短歌には詳しくないからとおじけづく必要は全くないと思っています。生徒と同じフラットな立場に立って、仲間内で楽しむために話がしたいんだ、というスタンスで向き合うのがいちばんだいじなことではないでしょうか。
―― ちなみに、生徒の反応がよいタイプの歌、というものはあるのでしょうか。
やはり、恋愛について詠んだ歌は反応が大きいと感じます。もちろん、教室で恋愛を語ること自体がタブーなケースもあるかと思います。私の場合は、「みんなとは世代が離れている俺が恋愛を語るのはおかしいかもしれないけれど、今日はちょっとだけそういう短歌を読んでみようか」など、そういった前置きをしてから歌を紹介するようにしています。それこそ、今回の教科書で取り上げている
ほかにも、
インタビューに答える千葉先生
―― 生徒に実際に歌を作らせることはありますか。
じゃあ、一首作ってみようというと、たいてい何かしら詠んでくれますね。ただ、生徒たちの状況によって、指導を変えることがあります。あまり読書量が多くなさそうだなと感じたら、五・七・五の上の句だけこちらで作って、七・七の下の句を募集することもあります。一人で作るのがたいへんそうだったら、三、四人のチームになって作ってもらうこともあります。
―― そうした指導は実践的に取り入れられそうですね。
それから、七音にこだわりすぎず、八音でも九音でもいいよ、ぐらいに初めは言っておくんです。だいたいそれぐらいに収まれば大丈夫だから、と伝えると、言葉が出やすくなりますからね。もちろん、全員が全員、そうやって定型から外れた破調の歌を作るわけではないので、ときどき破調が混じってもかまわないよ、というスタンスにしておくと、生徒も取り組みやすくなるんじゃないでしょうか。
あとは、クラスで作品集を作るというのを最終的なゴールに決める方法もよいと思います。一人一人に歌を詠んでほしい場合は、書き出しの五音だけこっちで作ってあげるとか。例えば、「帰り道」と指定してあげると、それだけでみんなその後が続けられるんですよ。「帰り道いつもよく見る何々の…」とか「帰り道坂を上がって何々を…」とか。「帰り道」とか「放課後の」とか「君の背に」とか、何でもいいのでこちらが初めの五音のバリエーションをいくつか示しておく。初めの言葉が共通していても、残りは自然とそれぞれの言葉が続いていくんです。そうして書き慣れていくうちに、こだわりも出てくるし、それだけで歌が詠めるようになっていくんです。
―― なるほど。段階的に指導をしてあげれば、最終的にはゼロから歌が作れるようになりそうですね。
別の方法として、これは歌人の
―― まずは一首作る経験を、生徒たちにしてもらいたいですね。貴重なお話をありがとうございました。
千葉聡(ちば・さとし)
1968年生まれ。横浜サイエンスフロンティア高等学校教諭。歌人集団「かばん」所属。著書に「短歌は最強アイテム」(岩波書店)、歌集に「微熱体」(短歌研究社)「飛び跳ねる教室」(亜紀書房)「グラウンドを駆けるモーツァルト」(KADOKAWA)など多数。