
2024.6.19
新教科書特集
中学校の新教科書特集、第5回では、前回に引き続き、1年生の冒頭教材「朗読の世界」の著者である魚住りえさんへのインタビューをお届けします。魚住さんの中学生時代のお話や、現在のご活動などを伺いました。
―― 魚住さんが中学生だった頃のお話を聞かせてください。
ずっとピアノを習っていました。ピアニストになりたくて、親もそう望んでいました。ですので、ピアノをひたすら弾いている毎日でした。宿題をして、ピアノを弾いて、ご飯を食べて、またピアノを弾いて、寝る、みたいな。そういうストイックな中学生でした。学校が終わるとすぐにピアノの練習で、なかなか友達と遊ぶ時間も取れませんでした。
―― 国語の授業はどうでしたか。
国語の授業はとても好きでした。国語の先生も大好きでした。先生に当てられて立って教科書の文章を読む、みたいなことがすごく楽しくて。きっとそのときから朗読が好きだったんだと思います。もちろんそのときはただ雰囲気で文章を読んでいたんですけれども、その時間がすごく好きだった記憶があります。
小学生のときだったかもしれませんが、すてきな文章を習った日は、母のところへ行ってそれを読んで聞かせていたらしいんです。正確には思い出せませんが、石川啄木とか北原白秋とか、そうした詩人のすてきな言葉に出会うと、声に出して読んでいました。言葉に対する感受性が強い子供だったんだろうと思います。
―― ピアノで培った音感が朗読に関わっているのかもしれませんね。
朗読の原稿は楽譜と同じようなものだと思っているんです。私は朗読用の原稿にたくさんのマークを付けているんです。何が何やらと思われてしまうかもしれないのですが、あれが一種の音符のような記号になっています。その記号をそのまま音にすれば、それが相手によく伝わる表現になるように作成をしています。「高く読む」「ゆっくり読む」「ポーズ(間をおく)」などというのは、まさに楽譜ですよね。
「蜘蛛の糸」朗読用原稿(1年「朗読の世界」p.20より抜粋)
―― 魚住さんはもともとアナウンサーとして活躍されていましたが、きっかけはどのようなものでしたか。
高校生になる頃に、ピアニストになる夢を諦めました。ただ、ピアノをやめてやることがなくなってしまって。毎日毎日、家に帰って宿題をして、ピアノを弾いてご飯を食べて、またピアノを弾いて寝る…といった生活が終わりを告げて、その時間をこれから何をして過ごそうかなと。私はほとんどテレビを見ていなかったのですが、あるとき、NHKの女性のアナウンサーが夕方のニュースを読んでいるのを偶然見て、「なんてかっこいいんだろう。私もこういう仕事がしてみたい!」と思ったのがきっかけでした。そこから放送部に入って、発声練習をして、という日々が始まりました。
―― 放送部ではどのような練習をされましたか。
指で弾けば楽器が音を出してくれるのとはわけが違って、自分自身が楽器になって、呼吸法も全部変えて声を出す、というのは訓練が必要でした。そのために、寝転んだお腹にレンガを置いて、腹式呼吸のための運動をしたりもしました。
NHKがやっている「全国高校放送コンテスト」というのがあるんです。70年ぐらいの歴史があって、甲子園みたいに、毎年夏に開催されます。それに出場することを、恐らくどこの高校の放送部も目標にしているんですね。そこで成績を残した人は、実際にアナウンサーになっているかたが多いんですよ。ですから、それに向けて腹筋をして、発声練習をして。ほとんど運動部のように、肺活量を増やすために走ったりもしていました。
―― 体力勝負なんですね。
アナウンスも朗読も、スポーツと同じなんです。けっこうカロリーやエネルギーも使いますし、メンタル面もしっかりしていないと相手に思いを伝えられませんよね。
ナレーションの仕事も、1時間しているだけでもかなり疲労がたまるんです。気持ちも体力も気力も、全部持っていかれます。過去に、1時間のドキュメンタリー番組のナレーションをしていたことがあったんですが、1時間の番組を3.5時間くらいかけて収録するんですよ。終わった後はもう、ブースの中で、毎週机に突っ伏していました。講演会などで90分ほど人前でお話をする機会もあるんですが、1キロ痩せていることもあります。
―― そんなに?!
はい(笑)。
インタビューに答える魚住さん
―― 現在はどのようなご活動をされているのでしょうか。
今は、コミュニケーションスキルについての講演をしています。話し方と、話の聞き方。この両輪でコミュニケーションは回っているので、前半で話し方を、後半で話の聞き方を学んでいただく講演会を行っています。それ以外は、アナウンサーとして司会業をしたり、ナレーターのお仕事をしたり、ラジオやテレビに出たりもしています。
―― 言葉に関わるお仕事を長くされてきて、魚住さんが大切にしていることはありますか。
言葉を選ぶときには、易しい言葉に言い換えるように特に気をつけています。書き言葉だと目で見て理解できるのですが、耳で聞いてすぐ分かるようにするために、それこそ中学生の子供でも分かるような、易しい言葉遣いで話すように心がけています。
例えば、「難解」という言葉にしても、「何回」と受け取られないように「難しい」と言い換えるとか、「首相」は「総理」と言い換えるとか、耳で聞いてすぐに分かる言葉に言い換えるようにしています。あとは、なるべく聞き手に寄り添うような言葉を使いたい、という気持ちがあります。相手の心に寄り添って、共感を誘うような言葉ですね。コミュニケーションも自分一人でべらべらしゃべっているだけでは独り言になってしまうので、聞き手の気持ちに寄り添う言葉をつむいで相手に届けられたらな、と思っています。
魚住りえ(うおずみ・りえ)
1972年生まれ。大阪府で生まれ、広島県で育つ。元日本テレビアナウンサー。著書に「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」(東洋経済新報社)など。