
2024.6.5
新教科書特集
中学校の新教科書特集、第4回では、1年生の新しい冒頭教材「朗読の世界」の著者である魚住りえさんにインタビューを行いました。元日本テレビのアナウンサーでもあり、現在はボイス・スピーチデザイナーとして、声の出し方や話し方の指導もされている魚住さんに、朗読の魅力やポイントについてお話を伺いました。
―― 朗読にはどのような効果があるのでしょうか。
まず、朗読を続けることで、言葉が出てきやすくなりますし、声も出るようになることが挙げられると思います。書いてあるものを朗読するという経験を繰り返していくことで、人前でフリーで話すような状況でも話がしやすくなる、という点が確実にあると思っています。
教科書を使われる生徒さんたちにもぜひ試していただき、その感覚を味わってみてもらいたいと思います。何かを発表するとか、お友達としゃべるとかでもいいんですけれども、教科書に書いてある文章を朗読した後は、すごくスムーズに話せるようになっているはずです。ただ、一晩寝ると元に戻ってしまうので、書いてあるものをまた朗読する。それを繰り返していくと、大人になっても、「スピーチがうまいね」「人前でしゃべるのが上手だね」と評価されて、自信にもつながっていくと考えています。
―― 朗読と音読にはどのような違いがありますか。
朗読の究極の形というのは、「話すように読むこと」だと言われています。皆さんが会話の中で自然と抑揚をつけて話しているように、文章を読んでいるのにまるで話しているかのように聞こえる、というのが最終目標にあるんですね。
その際に、相手に伝わるように読む、ということがだいじになってきます。特にその点が音読とは違うところです。音読は書いてあるものをただ声に出してみるだけですが、朗読は、誰かに分かってもらおう、相手に伝えようと思って読むことなので、そこが全然別物だと思っています。
1年「朗読の世界」p.16-17
―― 朗読の楽しさや魅力を教えてください。
自分が一生懸命読んだもので聞き手が笑ってくれたり、泣いてくれたり、そういうのはやはり朗読ならではの楽しさだと思います。例えば、過去に、コンサートなどで朗読をしていたこともあるんですね。姉がピアニストなんですけれど、私が作品を朗読する合間に、姉がクラシックを弾くということをしていました。今回の教科書で取り上げている「蜘蛛の糸」もそこで扱ったことがあるんですよ。私がおどろおどろしく朗読したものですから、糸を登ったカンダタが突き落とされる場面で、聴衆の赤ちゃんが泣き始めてしまったことがあって。本当に怖かったみたいです(笑)。
―― 朗読の際に、情景は意識されますか。
そうですね。例えば皆さんも、ドラマや映画などをご覧になると思うんですが、視点が切り替わるときってあるじゃないですか。そこでは必ず間を取るなどの工夫がされていますよね。朗読する作品に初めて向き合うときには、もし自分が撮影監督だったらどういう絵の撮り方をするか、その映像を自分の中で組み立てることをします。どこで間を取るかとか、どこをクローズアップするかとか、どこで盛り上げるかとか、そういったことを考えながら読んでいますね。
―― そうした作業は文章を読解する作業にも近いように感じられます。
朗読の際は、作者がその文章のどこを強調したいのかを読み解く作業がとてもだいじになってきます。一行一行の中にもキーワードは含まれていますし、段落ごとにもありますし、文章全体で見たときにもあります。それをつかみ取るには、文章を読解する力が必要になりますよね。
―― 朗読する文章のどこをどう強調するかは、個人の自由でもよいものなのでしょうか。
本当によく考えられたものであれば、もちろん、ありだと思います。ただ、好きなように節回しをつけて読む、というのは正しくないかもしれません。自分のリズムや息遣いで読んでしまうことによって、相手に伝わりづらくなってしまうおそれもあります。どこを高く読み、どこをゆっくり読み、どこで間を取るか。じっくりと考えたうえでそう判断するのであれば、それはその人の朗読の仕方として正解だとは思っています。
朗読をする魚住さん
―― 朗読の際のポイントはありますか。
聞いている人を飽きさせないためにはどうしたらよいかを考える。ポイントは、これに尽きますね。同じ高さでずっと読むとか、同じリズムやスピードで読むとか、句点や読点が来たら毎回一秒空けるとか、機械的な朗読をしていたらつまらないですよね。ここはあえてつなげてしまおうとか、ここはいきなりゆっくりにしようとか、聞いている人に驚きを感じさせられるといいですね。
授業をされる際の先生の話し方もいっしょで、先生がたも生徒さんたちを飽きさせないためにいろんな工夫をされていると思うんですよね。例えば、静かにさせるために急に黙ったりとか、あるいは、急に声を出したかと思えばわざと小さくするとか。それと朗読も全く同じです。そうした抑揚のスキルを持っていれば、生徒さんたちも、ディベートの場面であったり面接の場面であったり、相手によく思いを伝えられるようになると思います。
―― 先生が生徒の朗読を聞く際には、どのようなところに気をつければよいでしょうか。
先ほど、自分の好きなように読んでしまうと相手に伝わりづらいよ、ということをお話ししたのですが、一生懸命考えた結果として、意図してそう読んでいるのであればそこはすくい取ってあげるのがよいと思います。
例えば、「ごんぎつね」で兵十がごんを火縄銃で撃った後に、「兵十は駆け寄ってきました。」という文章があります。私は「駆け寄って」のところはスピーディーに読むのがいいと思っているのですが、もしかしたら、あえてそこをゆっくりと読む人もいるかもしれません。その理由をきいてみると、「くりが置いてあるその後の場面を映像的に見せるための伏線として、スローモーションに感じてほしかった」とか、そうした答えも考えられるわけですよね。そうすると、「そうか! 私の読み方よりもそっちのほうがいいかもしれない!」と、私としても納得してしまうわけなんです。
一人一人に感じ方や、表現をこうしたいという思いがあると思います。ですので、「その読み方は間違いです」というのではなく、なぜそうしたのか、なぜそこで間を取ったのか、なぜそこを強く読んだのか、その意図をぜひきいてみてほしいなと思います。
魚住りえ(うおずみ・りえ)
1972年生まれ。大阪府で生まれ、広島県で育つ。元日本テレビアナウンサー。著書に「たった1日で声まで良くなる話し方の教科書」(東洋経済新報社)など。