
2024.1.24
外国人児童のための日本語教育について考える
前回から引き続き、青山学院大学の田中祐輔(たなかゆうすけ)先生によるJSL児童に向けた国語科指導のポイントをお届けします。
前編では、国語科で学ぶ子どもの多様化とJSL児童(Japanese as a Second Language*日本語を第二言語とする児童)が直面している困難や共生的支援のあり方についてお話しいたしました。後編となる今回は、JSL児童が学びに必要とする語彙を国語科で支援する際のポイントについて考えたいと思います。
児童は日々、膨大な量のことばに触れ、他者とのコミュニケーションと学習に取り組む必要があります。日本語母語児童の場合は小学校入学時点で6,000語の理解語彙があるとされ、日々児童が接することばの世界というものは決して小さくありません。JSL児童を取り巻く豊かなことばの世界を把握しながら、それをいかに指導していくか検討することはとても大切であると言えます。
語彙とは「一定の範囲において行われる語の集合である」(国立国語研究所、1988、p.3)とされ、JSL児童が学校での学びに必要な語の集合、あるいは、社会生活に必要な語の集合、などに関する指導を、JSL児童のための語彙指導と定義することができます。そして、語彙には主に次の5つの機能があるとされます。
語彙の5つの機能
日本語を通して世界を把握し、必要な情報や、文化認識、人間関係意識などを得るうえで、語は多くの面にわたって重要な機能を担うため、その集合である「語彙」は、児童のコミュニケーション活動にとって不可欠な要素であると言えます。
『小学校学習指導要領(平成29年告示)』では、こうした語彙指導の重要性が明確に記載されています。
①語彙指導の改善・充実
中央教育審議会答申において、「小学校低学年の学力差の大きな背景に語彙の量と質の違いがある」と指摘されているように、語彙は、全ての教科等における資質・能力の育成や学習の基盤となる言語能力を支える重要な要素である。このため、語彙を豊かにする指導の改善・充実を図っている。
語彙を豊かにするとは、自分の語彙を量と質の両面から充実させることである。具体的には、意味を理解している語句の数を増やすだけでなく、話や文章の中で使いこなせる語句を増やすとともに、語句と語句との関係、語句の構成や変化などへの理解を通して、語句の意味や使い方に対する認識を深め、語彙の質を高めることである。
(小学校学習指導要領解説【国語編】解説、p.8*マーカー筆者)
マーカー部分でお示ししたように、語彙指導は、児童のすべての教科等における学びを支える重要な要素であることが指摘されています。
ここで第二言語としての日本語という視点から考えてみたいと思います。JSL児童は教科学習以外にも学校生活や日常生活の中でさまざまな場面、対象、状況において多種多様の語に触れます。
多種多様の語に触れる
その語彙の規模については複数の考え方がありますが、概ね、以下のように小学校入学時点で6,000語は必要であると考えられています。この数を、日本語を第二言語として学ぶ人々への試験と比較すると次のようになります。
いかがでしょうか。想像以上に小学校入学時や卒業時に必要とされる語彙の数は多いと感じるのではないでしょうか。JSL児童もまた、同じ環境と同じ場面で学ぼうとすれば、やはりこれだけの語彙力が求められるということなのです。
第二言語として日本語を学ぶうえでの語彙の難しさをいくつか挙げると、以下のような点が指摘できます。
・語彙を構成する文字(ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字など)の種類が多いこと。
・作品などに登場するリズミカルな擬声語・擬態語が感覚的に理解しづらいこと。
・外来語が持つイメージや意味が複雑で理解しづらいこと。
・同音異義語が多く判別が難しいこと。
・関係性や立場、場面、状況によってことばが変化し使い分けなければならないこと。
・母語も習得段階にあるため抽象的な概念を翻訳しても理解することが困難なこと。
・家庭で用いられる言語と学校で使われる言語が異なり混乱するケースも多いこと。
こうした事情や特性を理解しながら、当該JSL児童の発達段階や属性、レベル、置かれた状況、生活環境、目的に応じた語彙を選ぶ必要があります。そして、選んだ語彙を指導する際には、以下のようなポイントに留意することが効果的です。
1)全体
語彙量の拡大にのみ着眼するのではなく、場面や状況、相手に応じて適切な語を用いて表現し、他者を理解し自己を表現できるようになることが重要。そのためには、語彙量の拡大に加えて、質的な理解、そして、あたらしいことば、分からないことばと出会ったときの理解の姿勢や文脈と関連語を結び付ける能力を養うことが必要。
2)導入
・児童が興味や関心、意欲を持って取り組むことができるように、例えばことば遊びの中で指導する(「単語→複合語→文」の組み立て練習、コロケーションの練習、文中の語を空欄にした状態での穴埋め練習、言い換え練習、意味のつながりを伝える、観点を設定したことば集め、似たようなものを選ぶ練習など)
・多義語は成人学習者の場合は意味を同時に教える場合が多いが、JSL児童の場合は消化しきれないため絞って教える
・対義語や類義語はあわせて教える(大きい・小さい / 用意・準備)
・共起する語をあわせて教える(「計画を立てる」)
・児童が目で見て触れることのできるものを例に挙げる
・場面と状況、人物を固定して表現を確認する(登場人物の関係や世界観をイメージしやすいようにしておく)
・語彙は整理して教える(語のグループを連想させる練習、「動物:いぬ・ねこ・ライオン」「のりもの:くるま・でんしゃ」)
・理解の確認は応答から(「うれしい」という語を導入する際に、「うれしい」とはどういう意味かと尋ねても児童としては他のことばに置き換えることが難しい。また、逆に「うれしいですか」と、はい /いいえで答えられることばを投げかけても、本当に理解しているのかは判断できないため、「どんなとき、うれしいですか」と聞いたり、イラストを並べてだれがうれしそうかといった問題で理解促進を図る)
研修Webプラットフォーム「Himawari」
近年では、こうした語彙指導をはじめとするJSL児童日本語教育のための研修Webプラットフォーム『Himawari』も公開されるようになり、お住まいの地域や時間的制約にとらわれず、スキルアップに取り組むことができる環境が構築されています。筆者もプラットフォームや掲載動画の制作に携わっておりますが、非常に幅の広いトピックについてさまざまな専門家の知見から理解を深めることのできるものとなっています。ぜひ、児童の学校生活や学びの根幹を成す語彙の学習支援を行ううえでご活用ください。
【参考資料】国立国語研究所(1988)『語彙の研究と教育(上)』大蔵省印刷局、日本語教育学会編(2005)『新版 日本語教育事典』大修館書店、文化庁・日本語教育学会(2023)『Himawari』(https://himawari-jle.com/)