これからの「書くこと」を考える 第1回「個別最適な学び」の視点で授業を見直す

2023.8.23

これからの「書くこと」を考える

第1回「個別最適な学び」の視点で授業を見直す

横田経一郎(植草学園大学教授)

「令和の日本型学校教育」と言われて久しいですが、国語科の「書くこと」についてどう考えていけばよいのでしょうか? 植草学園大学の横田経一郎(よこたけいいちろう)先生が、3回に分けてポイントを解説します。初めのキーワードは「個別最適な学び」です!

先日、2年生「絵を見てお話を書こう」(東京書籍)の授業を観ました。4コマの内、空白となっている3コマ目の内容を想像し、その場面の紙芝居を書くという学習でした。

『新しい国語 二上』(東京書籍株式会社、2020年、pp.142-143)より 『新しい国語 二上』(東京書籍株式会社、2020年、pp.142-143)より

教師が作成したモデルとなる話を提示した後、場面の書き方を確認します。つなぐ言葉、時・場所・登場人物の言動を詳しく書く、問題の解決方法を考える、会話文を使う等の確認が長々と続き、ようやく個々が書く活動に入ります。

そして、教師がねらっている同じような文章ができあがりました。

よくいえば「同質の学びの保障」ですが、悪しくいえば「画一的な学びの押し付け」です。従来の「書くこと」の学習といったら、こんな授業が定番でした。

子どもたちの個性も、学び方のスタイルも、能力も、経験も、一人ひとり異なります。なのに、画一的な指導でよいはずがありません。だから、2021年に中教審から答申された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」において「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」という副題が添えられているのです。

では、先ほどの授業を「個別最適な学び」の視点で見直すと、どんな授業になるでしょうか。

大切なのは、単元全体の発想を変えることです。特に、見通す段階を重視します。

まず、教科書の4コママンガをもとに紙芝居をつくるという課題を児童と共有します。その際、課題意識が鮮明になるように次の五つの言語意識を具体化します。

目的意識 … どんな目的のために紙芝居をつくるのか?

相手意識 … 紙芝居は誰に向けて上演するのか?

場面意識 … どのような場所で紙芝居を上演するのか?

方法意識 … そのために、どんな工夫が必要か?

評価意識 … 紙芝居を見た読者から、どのような感想を得るのが理想か?

例えば、「兄弟学級の4年生の教室を訪ねて、自分たちで考えた物語の紙芝居を楽しんでもらおう。4学級あるから、7人ずつ各教室を訪ねて紙芝居を上演しよう。だから、空白の場面が、みな同じじゃつまらない。空白の場面を特に工夫しよう。そして、上演後、3の場面の工夫が4年生にほめられたらうれしいな」というようにです。

場合によっては、児童のモデルとなるように教師が作成した紙芝居を見せるのもよいでしょう。教師のモデルを真似て、児童は表現の工夫をします。

また、何時間で、いつまでに完成させるかを提示し、児童個々に学びの見通しを考えさせます。1コマ目から順番に紙芝居をつくっていこうという児童もいるでしょう。中には、最も重要な3コマ目の場面からつくろうという児童もいるかもしれません。また、紙芝居の絵から描くのか、文から書くのかも、児童によって異なるでしょう。低位の児童には、モデルとしての見通しを示すのも一案でしょう。

こうして、児童の個々の見通しに沿って、紙芝居づくりをさせます。

そうすると、記述の授業は、千差万別の活動が展開するでしょう。つくる場面も異なり、絵を描く児童も文を書く児童もいる。教師は、個々の支援に徹します。悩んでいる子には相談しながらアドバイスを、作業が止まっている子にはその子の手を取って一緒に書き進めます。作業が進んでいる子にはさらに高い課題を示唆します。大切なのは、学級の一人残らず目的の紙芝居を完成させることです。もちろん、書き浸っている子には、無駄な言葉をかける邪魔はしません。

そして、完成したら上演の練習も兼ねて、互いに見合い、他者の工夫を参考にしながら、自分の紙芝居をブラッシュアップしてくのです(この「協働的な学び」については、次回に詳述します)。

このような授業の姿こそが、これからの時代に求められる「個別最適な学び」のイメージなのです。

このような発想は何も新しいものではありません。大正期に活躍した芦田恵之助(あしだえのすけ)は、こう述べています。「さきには『教えて綴らす。』ものと信じていた綴り方の根本義が、今は『綴らせて導く。』という義に変わったのである。言葉の上には大なる差が認められないが、その真義は、外よりすると、内よりするの差である。」(『尋常小学綴方教授書(巻二)』育英書院、1919年、p.3)と。

芦田は、こうも述べています。「かの机間を巡視して、児童の綴り方帳に爪を立てて児童を益々固くさせるなどは役にも立たぬことである。それよりか泰然自若として椅子に腰かけて、誰が見ようが少しも動揺のない心持を以て児童に対し得る態度こそ大切である。こうして児童は他に何等の雑念に煩わされることなく、緊張した態度で筆をとることが出来ます。」(白鳥千代三編『小倉講演綴方教授の解決』目黒書店、1921年、p.92)と。

先達は百年も前から「個別最適な学び」を実践していたようです。

(第2回に続く)

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