
2026.8.5
みんなの読み物(創作)
今回の「みんなの読み物」は、児童文学作家のまはら三桃さんによる物語です。第一線でみずみずしい物語を紡ぎ続ける、まはら三桃さんならではの作品をぜひお楽しみください。
「じゃあいっそ、わがまま発表大会はどうですか。」
中原くんが言って、教室はしんと静まった。
学級会の時間。みんなでお楽しみ会の出し物を決めていた。私たちのクラスは学期の最後にお楽しみ会をやる。一学期は歌のステージ、二学期はお笑い大会をやった。どちらも楽しかったけど、今回はぜんぜん決まらなかった。
「ダンス大会。」
「苦手です。」
「マジックショー。」
「ム~リ~イ。」
「ダジャレ大会。」
「つまんないよ、航くん。」
てんでに出されるアイディアには、ヤジがとんだり、クレームがついたりする。
「静かにしてください。」
「人が話しているときは聞きましょう。」
司会の中原くんは何度も注意したけれど、みんなは好き勝手な意見を言うばかり。
顔をしかめてそんなみんなを見ていた中原くんは、やがて大きな声で言ったのだった。
「じゃあいっそ、わがまま発表大会はどうですか。」
私はちょっとびっくりした。だって中原くんはとても真面目だから。忘れ物はしないし、ふざけたり騒いだりもしない。わがままとは真逆のキャラクターだ。
きょとんとしているみんなに向かって、中原くんは続けた。
「ふだんみんながこうだったらいいなとか、これは嫌だなと思ってることを自由に発表するんです。」
「そんなことならたくさんあるよ。」
紗季ちゃんが言うと、みんなも大いにうなずいた。
「じゃあさ、いちばんいいわがままを言った人が優勝にしようぜ。」
優斗くんが言った。いつも強気な優斗くんは、わがままにも自信があるのだろうけど、みんなも乗り気になった。
「それって、ちょっとおもしろそう。」
そんなわけで、今回のお楽しみ会はわがままを発表することに決まった。
発表大会当日。発表にあたっては、中原くんが一つだけルールを提案した。
「人の発表に反対したり、ヤジを飛ばしたりはしないようにしてください。」
まず手をあげたのは、冴ちゃんだった。冴ちゃんはいつも自分の意見をはっきり言う。
「私は早起きが苦手なので、一時間目をなくしてほしいです。」
きっぱり言うと、
「サンセー。」
声が上がった。冴ちゃんはにっこり笑って着席した。
言ったことが認められると嬉しいよね。
思っていると、昇太くんが立ち上がった。
「ぼくは、スマホを持ってきたいです。緊急のときにいいと思う。」
するとすかさず、反対意見が出た。
「それはよくないです。授業中に使う人がいるかもしれないし、持ってない人もいるから不公平です。第一うっかり誰かが壊したら、大問題です。」
矢継ぎ早に言ったのは南ちゃん。南ちゃんの言うことはいつも正しいけれど、今回のルールは破っている。
「反対意見はダメだぞー。」
優斗くんに言われて、南ちゃんは肩をすくめた。
次に康太くんが発表した。
「ぼくは運動会をなくしてほしいです。」
「びりだからな~。」
優斗くんが言うと、南ちゃんが反撃した。
「ヤジもダメ。」
すると凜ちゃんから声が上がった。
「私はあったほうがいいと思う。だって、楽しいもん。」
凜ちゃんは足が速い。
そうか。同じことでもみんなが楽しいとは限らないよね。
納得していると、吉元さんが手をあげた。
「私は給食について、言いたいことがあります。残るのはもったいないので、食べきれる分だけ取るようにしたらいいと思います。」
「それはいいと思います。」
給食委員の宗くんが賛成した。
「食べられないものは、自分にしか分からないから、セルフスタイルがいいよね。」
アレルギーとかあるしね。
思っていると優斗くんが、立ち上がった。
「おれは『おれファースト』でいきたいです。何でもおれが優先、おれの言うことは絶対。」
大きな声で言い放った。ヤジもクレームも禁止だから仕方がないけど、教室の空気はピリッとした。私の胸もざわざわした。
けれど優斗くんは満足そうで、
「優勝はおれだな。はっはっは。」
なんて高笑いしている。
ますます空気が重たくなったとき、航くんが待ってましたとばかりにこう言った。
「そりゃまだ分からん、知らん、なっちょらん。」
「ぶっはっは。」
みんなはとたんに笑い出し、つられて私もふき出した。
すると名前を呼ばれた。
「山下さんは何かありますか?。」
「え?」
中原くんと目が合った。
どくん、と胸が一つ打つ。みんなの前で発表することが、私はとても苦手なのだ。授業中も質問されると、それだけで顔が赤くなって泣きそうになる。
でも……。今日ならできるかも。
私は、おずおずと立ち上がった。そして思い切って言ってみた。その思いを。
「わ……私は、みんなの前で発表をしたくないです。」
言い終わったら、足ががくがく震えた。でも、何人かの人がうなずいてくれた。
「緊張するよね。」
「何ならぼくもしたくない。」
賛成する声も聞こえる。顔がかあっと熱くなったけど、泣きたい気分ではなかった。パンケーキみたいにふっくらした気分だ。
席に座ると、中原くんが言った。
「では、ぼくも発表します。」
私ははっと背筋を正す。
中原くんのわがままって何だろう。
私は全神経を耳に集めて、言葉を待った。
まはら三桃(まはら・みと)
1966年、福岡県生まれ。「オールドモーブな夜だから」で講談社児童文学新人賞佳作に入選(『カラフルな闇』(講談社 2006年)と改題して刊行)。『鉄のしぶきがはねる』(講談社 2011年)で坪田譲治文学賞、JBBY賞を受賞。ほかの著書に『なみだの穴』(小峰書店 2014年)、『奮闘するたすく』(講談社 2017年)、など多数。