
2026.7.15
ことばを考える
シリーズ「ことばを考える」では、さまざまな背景を持つ人々との関わりが増える現代において、改めて「ことば」の在り方を見つめ直します。今回は、「読書」における働きかけや具体的なアイディアについて、山崎学園富士見中学校高等学校の司書教諭・宗愛子(そうあいこ)先生にお書きいただきました。
「どうすれば、生徒は本を手に取るようになるのか。」日々、学校図書館ではこの問いと向き合い、さまざまな工夫をしています。話題のドラマや映画の原作を展示してみたり、図書委員の生徒と一緒におすすめ本のPOPを作ってみたり、ビブリオバトルを開催してみたり……これらの取り組みは、本が好きな生徒にとっては、読書好きが強化され、「もっと読みたい」という欲求を刺激します。一方で、読書に苦手意識があり、読書に興味がない生徒にとっては、この読書をすすめる働きかけが、時に負担となる可能性もあります。
では、読書に苦手意識をもつ生徒に対して、どのような働きかけが有効なのでしょうか。読書が苦手な生徒の声としてよく聞くのは、最後まで読みきれない、読むのに時間がかかるというものです。本を「最初から最後まで読むこと」や「1冊読み切ること」が読書であるという思い込みから、自分はできないと感じている気がします。
そうなると必要なのは、「読書を促すこと」ではなく、生徒が自然に読んでしまう状況を作り、本を通して言葉と出会い、自分の認識が揺さぶられるような体験の機会をつくることではないでしょうか。学校図書館では、どの本を読むかだけでなく、どのように「読むこと」と出会うか、こうした出会いを設計することも大切な役割です。その入り口は必ずしも1冊の本を読むことである必要はありません。調べる活動の中にも、生徒が読む場面はたくさんあります。
ここでは、中学1年生の探究学習のミニ活動で行った百科事典の事例を紹介します。公共図書館の団体貸出を利用して、複数セットの百科事典を用意し、生徒1人1人が百科事典を引くことができる環境を整えました。3人1組で3つの項目―― 例えば、「もののけ」「おばけ」「妖怪」といった、一見似ているものを提示し、それぞれを百科事典で調べてみるというワークを行いました。生徒は1人1語を担当し、説明を読み取った上で、グループでその違いを共有し、話し合いました。ここでのポイントは、紙の百科事典を実際に使わせるということと、必要な情報を書かせるということです。
活動自体はシンプルですが、生徒の様子を観察すると、さまざまな気づきがあります。そもそも百科事典を引くことに慣れておらず、該当の項目をみつけることに苦労していたり、書かれている説明を書き写すことに一生懸命で、3つの項目を比べるために情報を書き留めるのが難しかったり……とそれぞれが言葉と格闘している姿がありました。生徒は引くのが面倒、3つの言葉の違いを説明するのが難しいと言いながらも、自然と文章を何度も読み比べていました。
ワーク終了時には、他の言葉も気になってもっと調べたくなった、思ったより色々な言葉が載っていてびっくりした、などの感想も寄せてくれました。この活動では、情報を比較しながら考え、もっとよく知りたくて読むという行為を繰り返していました。例えば、「ホットケーキ」「パンケーキ」「クレープ(食べ物)」を調べたグループは、小麦粉・卵・牛乳を使った食べ物という共通点はすぐわかるのですが、何が違うのかをどう説明すればいいのか、何度も項目を読んでは考えていました。ここに「読むこと」の手応えがあるとも言えます。
国語の授業では、国語辞典を使う場面はあり、似たような活動はたくさんあるのかもしれません。それでも、あえて百科事典を使うことの意味は、あらゆる分野の事がらや現象を解説する言葉に出会い、それらを「読むこと」を通して広い世界を知り、もっと知りたいという気持ちにつながるところにあります。国語辞典が言葉の意味や用法などを確かめるものであるのに対し、百科事典は物事や概念を知るための本です。また関連項目や図版や写真で、さらに興味が広がるところも魅力です。そして何より、1つ1つの項目の説明はそれほど長くありません。だからこそ、読むことへの抵抗感が少ないのです。百科事典は「参考図書(レファレンス・ブック)」ではありますが、読む媒体として楽しむことも認めることで、読書嫌い、本を見るのも嫌という生徒の「読書は1冊の本を読まなければならない」という先入観をなくすことにもつながります。
もっと本を読んでほしい、という願いは学校図書館も同じです。とはいえ、読書好きの生徒を増やすことは簡単ではありません。しかし、「もっと知りたいから読む」という体験の機会は作ることができます。読まされるのではなく、気になるから読む、その経験を積み重ねられるように、国語科と学校図書館が一緒に「読むこと」の入り口を考え、読んでみようかなと思える生徒を増やしていきたいと思っています。
(参考資料)
・『総合百科事典ポプラディア 第三版』(ポプラ社、2021年)
・『百科事典活用のための指導案』(ポプラ社、2021年)
宗愛子(そう・あいこ)
山崎学園富士見中学校高等学校司書教諭。著書に『チームでつくる探究的な学び 授業のヒントは学校図書館に』(共著・全国学校図書館協議会)がある。