みんなの読み物(創作) 三人組

2025.10.15

みんなの読み物(創作)

三人組

森川成美(児童文学者)

今回の「みんなの読み物」は、児童文学者の森川成美さんによる物語です。『マレスケの虹』(小峰書店 2018年)や『かわらばん屋の娘』(くもん出版 2023年)など幅広い作品を発表し続けてきた森川さんが描く小学校四年生のお話とは...?

「あのね、ごめん、もういっしょに帰れないから。」
 四年生の九月、学校が始まってすぐ、ももねに言われた。
「どうして?」
 びっくりだ。
 ももねとカナ、そして私は、みんなも認める、仲良し三人組だったはずだ。
 私が三年生で引っ越してきてから、同じ方向に帰る私たちは、いつもいっしょだった。
 ももねとカナは、保育園の頃からの友達だったが、転校生の私を快く受け入れてくれた。私はそれをとっても感謝していた。「あなたの親友は誰?」と聞かれたら絶対、ももねとカナと答える。そう思っていた。
 それが、なぜ?
「カナと私、あんまり仲良すぎて、それってよくないって話し合ったの。」
「え? どういうこと?」
「つまり、二人で仲良くしすぎるのは、やめようって。」
「は? なぜ?」
「だからあ。」
 ももねは、めんどくさそうに、肩をすくめた。
「私たち、そう決めたの。じゃね。」
 私たち? それには、私は入っていないってこと?
 カナのほうはどう思っているのだろうか?

「ねえ、ももねとけんかした?」
 カナは口をへの字に曲げた。
「けんかじゃない。これからも仲良しでいよう、って言った。」
「じゃあ、今までのままってこと?」
 私の声は弾む。
「違う。仲良くしすぎるのは、やめたの。」
「どういう意味?」
「だからあ。」
 カナはももねと同じような声を出した。
「二人、あんまり仲良すぎるのは、よくないって思って。そう話し合ったの。」
 カナはももねと、そっくり同じことを言う。
「いつ?」
「夏休み。」
 夏休み、私はずっとおばあちゃんの家にいた。だから二人と遊んでいない。
 その間、何かあったの?
 心の底が、うずうずする。痛がゆいような。かきむしらないでは、いられないような。
「そんなのおかしいよ。だって仲良かったじゃない? もったいないよ。」
 ふん、とカナは鼻を鳴らした。
「私たちが決めたんだから。私たちのことだから。英麻には関係ないよ。」
「けんかしてないのに、おかしいよ。」
「けんかしてなきゃ、仲良くしなきゃいけないわけ?」
 どうして分からないの、とカナは言いたそうだ。
「じゃあ、せめて理由を教えてよ。」
「どうして、英麻に教えなきゃならないの? 私たちのことだから、私たちが知ってればいいでしょ。」
 それから、二人がいっしょにいるところを見ることは、もうなかった。
 二人で決めたことなら、私がどう思おうといいのか。
 結局、最後は二人なんだ。私なんて、ただくっついていたおまけだったんだ。
 私のことなんて、どっちも考えてない。ひどい。

 カナが私の百メートル前を歩いていく。
 その百メートル前をももねが歩いている。
 私が嫌われたんじゃない。だったら、どっちかに追いついて、並んで帰ってもいいはず。
 ちょっと足を速めてみてから、やっぱりやめた。
 それは違う。
 私は三人でいたかったんだ。
 でも、二人の心を、私が変えることはできない。理由が分かったとしても、結果は同じだ。
 もう終わったんだ。
 三人、きゃっきゃと騒ぎながら帰っていけた、あの時間は。
 本当は寄り道をしてはいけないのに、三方向に分かれた道の角にある、お地蔵さんの敷地の低いブロック塀に腰かけて、足をぶらぶらさせながら、長いこと話した、あの時は。
 何を言ったのかさえ覚えていないぐらい、ささいな話ばかりだった。
 お地蔵さんの所に来た。
 まずももねが右に曲がり、そしてカナがまっすぐ進んだ。
 私はちょっと立ち止まり、それから左に曲がった。
 たぶん、私たちは大きくなったんだ。
 バイバイ、昔の私。
 私は振り返り、お地蔵さんに向かって、手を振った。

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森川成美(もりかわ・しげみ)

1957年生まれ。大分県出身。『マレスケの虹』で、第43回日本児童文芸家協会賞を受賞。ほかの著書に「アサギをよぶ声」シリーズ(偕成社)、『たとえリセットされても』(文研出版 2024年)など多数。

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