
2025.7.23
夏休み明けの授業を考える 第2回
今回は、夏休み明けの子どもたちに関して、発達臨床心理学を研究している福井大学・岸野麻衣(きしのまい)先生にインタビューを行いました。前編では、夏休み明けに子どもたちがつまずいてしまう原因と、夏休み前にできることについて深堀りしていきます。
―― 最近、子どもたちが夏休み明けにつまずいてしまうという話をよく聞きます。どういった原因があるのでしょうか?
たしかに、夏休み明けに不登校の子どもが増えることがあるといった問題をよく耳にしますが、夏休みの過ごし方は多様なので、夏休み中と夏休み明けの子どもたちの状況を一言で言い表すのは難しいと考えています。
そういった中でも、子どもたちにとって夏休み中と夏休み明けでのいちばん大きな違いは、自分のペースで過ごしにくくなるというところでしょうか。夏休みが明けると、子どもたちは学校のリズム、学校の過ごし方に合わせていかなければいけない。そのつらさがきっといちばん大きいのでしょうね。
―― 確かに、生活が大きく変わってしまうことが夏休み明けのつらさにつながってしまうことは想像できます。では、具体的にどのようなつまずきがあるのでしょうか。
気持ちがなかなか乗らず、おっくうになってしまうという子もいれば、起きられないなど身体に出てしまう子もいます。相当に多様で、いろんなつまずきの現れ方がありますね。
また、低学年であれば、親が「学校に行きなさい」と言えば行っていた場合でも、上の学年になってくると親の言葉では動かないということが起こることもあります。あるいは、低学年では自分のつらさやつまずきがなかなか言語化できないという表現しづらさがあり、身体に症状として出てしまうこともあるかもしれないですね。
―― 「言語化」は国語の授業とも密接に関わってくるでしょうか。後編の内容にも関わってきますが、まず、夏休み明けにはどのような声かけや接し方をすればよいか教えてください。
直接の声かけや接し方よりも、学校に来たら「学校が楽しいな」とか「授業が楽しいな、おもしろいな」と子どもたちが思えることが重要なのではないでしょうか。
学校に行くのがつらいと思いながらも、何とか学校に来られたときに、ちょっと安心できたり、楽しさがあったり。その「楽しさ」というのは、単におもしろおかしい楽しさというよりは、自分の力が発揮できるといったような「うれしさ」ですね。そういう自己有用感があることで、休み中にずれてしまっていたリズムも、きっとちょっとずつ取り戻していけるんですね。
そういう意味では、「もう学校が始まったんだから、ちゃんとしなさい」といった形で声かけするよりは、子どもの状況を見取りながら、学校が楽しくて安心できる場所であること、また、自分の力が発揮できてきてよかったと、素直に、素朴にうれしいと思えるような環境を、どのようにふだんの生活や授業の中で生み出していくかが非常に重要だと思います。
―― 子どもたちが安心して過ごせる環境づくりについて、夏休み前からできる工夫はあるのでしょうか?
自分たちの生活や学びを子どもたち自身が作る、つまり自己調整と言われていることを日頃から意識しておくと、夏休み中に多少乱れることがあっても、子どもたち自身が「日常の生活でもこういうふうに過ごしていこう」と、自分たちで生活を作っていけると思います。
例えば、宿題をやってこられない子もいると思うのですが、そういう子にとっても、「次はやってきたいな」「やってきたほうがいいな」と、自分自身で思えるような工夫がだいじです。子どもたちが宿題をやりなさいと言われるから、怒られるからするというのではなく、自分にとってこういう意味があるからこうやっていこうというふうに、多少失敗しながらでもいいので、6年間かけてそういう自立した子どもに育てていけるといいなと思います。
「学校ではこうしなければならない」というルールがあまりにも強いと、子どもたちにとってはすごくつらいと思うんです。ただ、そういうことを学ぶことはもちろん学校生活の中でだいじなのですが、「ねばならない」からするのではなく、自分で意味づけをしながら、自己調整しながらちゃんと取り組んでいけるような力をつけていくことが大切です。
―― 子ども自身で調整して宿題を考えられるというのは、すごくおもしろそうですね。
自分たちが夏休み前に学んだことを踏まえて、「もっとこういうことをやりたいな」とか「学びたいな、生かしたいな」という思いから夏休みの宿題につながり、さらにそれが2学期のいろんな授業の中に生かしていく、つながっていくというふうになると楽しそうですよね。夏休み中に作った工作を見合うところから生活科や国語科の授業につなげていったという活動は聞いたことがあります。
ほかにもおもしろいなと思った例がもう一つあります。一年生のクラスなのですが、スタートカリキュラムを進めていく中で、先生が子どもたちに、何をしたいかや、どうしたいかを尋ねて、子どもたちといっしょに「じゃあ、そうしてみようか」と、子どもの声を生かしてクラスを作ったそうです。それで、いよいよ夏休み前になったときに、先生はワークなど夏休みの宿題を出して、「これをやってくるんだよ」と伝えたそうです。そしたら子どもたちが、「先生、それ、私たちにやりたいかどうかって聞いてないよね」って。「やりたいかどうか聞いてないのに、どうして先生がそれをやるって決めるの?」と言われたそうで、先生はすごくびっくりしたとおっしゃっていました。
それだけ、それまで子どもたちが「あれをやりたい、これをやりたい」と言える環境を作り、子どもたちが思ったことを実現できるような授業をずっとやってきたので、夏休みの宿題もそういう方向に持っていけばよかったと。でも、きっとそうやって、自らやりたいと思ってあれこれやってきた子たちは、宿題であっても「何これ! おもしろそう」と、あれこれやってみようとなっていくんじゃないか、なんてこともおっしゃっていましたね。
国語に関連した宿題ですと、読書感想文や夏休みの日記が定番で出されますが、それが夏休み前や後の学習と結び付いて、子どもたちにとっても取り組む意味が生まれるといいなと思います。
後編では、子どもに寄り添うとは何か、国語の授業で子どもたちに寄り添えることはあるのかについて伺います。お楽しみに!