みんなの読み物(エッセー) 信じてみる

2025.5.28

みんなの読み物(エッセー)

信じてみる

永井玲衣(哲学者・作家)

今回から、注目の書き手による新シリーズ「みんなの読み物」が始まります。初回は哲学者・作家であり、日本経済新聞「プロムナード」欄の執筆などでも活躍中の永井玲衣さんです。全国の学校を回って、子どもたちと哲学対話を実践してきた永井さんが考える「問い」との付き合い方とは…? 子どもたちといっしょに読んでいただけたら幸いです。

「問い」とは、常に既にもうあるものだ。でも「ない」ことにされていることがあるのではないか。あるいは、「問い」があることが苦しくてたまらない、という思いでいっぱいになることもある。なぜ生きているんだろう。友達とどこまで仲良くしなきゃいけないんだろうか。死ぬのが怖いけど、どうしよう。将来の夢って決めなきゃだめ? 「問い」は簡単にはいなくなってくれない。じゃあ、どうやっていっしょに生きたらいいのかを、考えなきゃいけない。

私たちには考えていることがある。「問い」がある。子どもだって、大人だって、誰だって、ある。でもそのことについて話せる場が、とても少ない。だから、話せる場を、いっぱい、一生懸命作らないといけない。これは大人の責任だ。

でもどうだろう。「対話」は嫌われている。求められているのに、嫌がられている。不思議なことだけど、実感としてはよく分かる。学級会は退屈だ。話し合いの雰囲気も最高に居心地が悪い。考えを話さなきゃいけない、「いいこと」を言わなきゃいけない、あの空気が私は大嫌いだった。

だから私は考え直すことにした。「対話」をもっといろんな人がそこにいやすい場にしたらいいんじゃないか。対話では、「いいこと」を言うよりも、聴くことをだいじにする。急ぐよりも、ゆっくりすることを大切にする。答えを求めるよりも、考える過程を重視する。「大丈夫じゃない」よりも「大丈夫」と思える場を作る。考えを戦わせたり、競わせたりするのではなく、互いの声を「聴き合う」場にする。

「違う意見の人と話したくない。」という声もよく聞く。それこそ、人と話す場を、みんなが嫌がる理由の一つになっている。でもやっぱり浮かぶのは、じゃあ「同じ意見」なんてものが果たしてあるのだろうか、という疑問だ。私たちは信じられないほどにばらばらで、全く同じということはありえない。だからといって、全くもって違うということもない。私たちは、ばらばらだが、重なる部分がある。そして、重なるところもあるが、やはり違う。

そんなあたりまえの事実を、まずは思い出すことが、今、必要なのかもしれない。子どもの世界でも、大人の世界でも、あいつは味方だけどあいつは敵とか、あいつは違うとか、そんなふうに分けてしまう。楽だけど、疑わしい。

ばらばらであることと、独りぼっちであることは違う。ばらばらだからこそ、私たちは誰かの言葉を聴きたいと思うし、いっしょにいられる。ばらばらだから、誰かに助けてもらったり、誰かを助けたいと思ったりする。

もしあなたが「問い」を持っていて、それにいっぱいいっぱいになっているとしたら、誰かに聞いてみるといい。相手が自分と全く同じ人間だったら聞く必要はない。違う人間だから、違う世界が生まれる。「こんなもんだ」と思っていた世界が、全く見知らぬ姿をとり始める。怖いかもしれないけれど、少しほっとはしないだろうか。

それにこう考えることもできる。「問い」は、あなたにただ意地悪をしてくる存在ではなく、あなたに「まだ、分からないぞ、もっと考えてみろ。」と励ましてくれる存在でもある。私は「どうせ、こうなんでしょう。」と世界に対してふて腐れた子どもだった。だけど「問い」は私を突っついて「本当に?」と話しかけてくる。厄介で、うるさい友人だ。

いいからさっさと「正解」が欲しいと、思う人もいるかもしれない。分からないことまみれだったら、生きにくい。でも「正解」がしっくりこなかったとき、もっと生きにくい世界が広がってしまう。困ったなあ。

「問い」も他者も対話も、思っているほど嫌なやつじゃないかもしれない。ちょっとだけ信じてみるのはどうだろう。一人で信じるのが不安だったら、いっしょに信じてみよう。信じるのが不安だったら、まあとにかくいっしょに考えよう。人生は長いのだ。

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永井玲衣(ながい・れい)

1991年、東京都生まれ。人々と考え合い、聴き合う場を各地で開いている。問いを深める哲学対話や、政治や社会について語り出してみる「おずおずダイアログ」、戦争について表現を通して対話する写真家・八木咲とのユニット「せんそうってプロジェクト」、Gotch主催のムーブメントD2021などでも活動。『水中の哲学者たち』(晶文社 2021年)で第17回「わたくし、つまりNobody賞」受賞。ほかの著書に『世界の適切な保存』(講談社 2024年)。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

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