読書案内 先生のおすすめ図書紹介 第4回

2025.3.26

読書案内

先生のおすすめ図書紹介 
第4回

井上次夫(高知県立大学教授)

「国語」を研究する先生はどんな本を読んでこられたのか。4回目の今回は高知県立大学の井上次夫(いのうえつぎお)先生に漢字指導と、文学研究に関わる図書をご紹介いただきました。ぜひご覧ください!

井上次夫(いのうえつぎお)先生

左・『漢字の常識』原田種成/著 三省堂 1982

突然ですが、漢字の書き取り問題です。ぜひ手書きで、皆さまも取り組んでみてください。

(1)うおうさおう   (2)びみょう

(1)は「右往左往」ですが、字形はどうなっているでしょうか。最初の「右」の横画「一」の長さは少し長くて、「左」の横画は少し短いでしょうか。そうでなければ誤字として×を付ける先生がいるそうです。それは、筆順が「右」は左払い「ノ」から先に書き、「左」は横画から先に書くため、字形はそのようにならなければいけないというのです。これは、多くの児童・生徒にとって何とも酷な採点です。
次に、(2)は「微妙」ですが、「微」の9画目を「レ」と1画で書いたところ、そこが2画になっていないので、誤りとして×を付ける高校の先生がいたそうです。しかし、その採点では総画数が1画増えて14画になってしまいます。「比」についても同様です(左は明朝体、右は手書き文字の例)。

比

※『常用漢字表』(平成22年11月30日内閣告示)より

その他、「令」や「芝」なども、字形(目に見える文字の形)が異なっていても字体(文字の骨組み)は同じなので、誤り(×)ではありません。

令

芝

※同上

特に国語教師は、内閣告示『常用漢字表』の付録「字体についての解説」の第2「明朝体と筆写の楷書との関係について」にまで目を通してこそ初めて、教室で正しい漢字指導、漢検や日本語検定の適切な漢字指導ができるといえます。本書は帯文に「漢字教育の第一人者が間違いだらけの漢字の教え方を正した好著」とあります。これは私たちにとってはもはやバイブルと言わなければならない一冊です。

その後、小林一仁『バツをつけない漢字指導』(大修館書店、1998年)が発行されています。また、最新の現代語の書き表し方を知るには『新しい国語表記ハンドブック 第九版』(三省堂、2021年)が有用です。

右・『全国作家記念館ガイド』作家記念館研究会/編 山川出版社 2019

小説『雪国』の冒頭です。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」(川端康成『雪国』p.5、新潮社、1947年)
さて、「国境」の読みはコッキョウでしょうか、クニザカイでしょうか。Web上にはさまざまな情報があふれています。研究者の見解はともかく、私たち一般の読者にとっては、音読みでも訓読みでも問題はないでしょう。ただ、本書に導かれて茨木市の川端康成文学館を訪れ、朗読を聞いたところ、クニザカイでした。また館内では、1968年12月のストックホルムでのノーベル賞授賞式の録画を見、川端の肉声を聞くことができました。入館料は無料。同じ大阪府では、司馬遼太郎記念館(東大阪市)、大阪樟蔭女子大学 田辺聖子文学館(東大阪市)、直木三十五記念館(大阪市)、与謝野晶子記念館(堺市)の存在を本書で知り、足を運びました。

京都府では、2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」によって国内外からファンが殺到した宇治市源氏物語ミュージアムへ。JR宇治駅からは徒歩約15分ですが、途中、宇治橋西詰で紫式部像、宇治川の流れを写真撮影し、入館するや王朝世界へ。そして、映像展示室では「浮舟」「橋姫」、オリジナルアニメ「ネコが光源氏に恋をした」等を見て『源氏物語』の教材研究が広がりました。

また、奈良県では、日本最古の歌集『万葉集』の時代を再現した奈良県立万葉文化館(明日香村)へ。歌の広場では古代の市を再現した人々の像や、文字ではなく「声」で歌い継がれた古代の歌に出会えました。こうして、人の心が最も激しく動く時に生まれる相聞歌(恋愛)、挽歌(哀悼)に思い至る教材研究となりました。

本書の帯文には「全国の文学館・記念館を紹介した初めての書」とあります。今後、その全国258館中の一つ、青森県にある太宰治記念館「斜陽館」を私はぜひ訪れたいと思っています。小説『津軽』の教材研究を目的に太宰治の故郷、五所川原市金木町に行くことを夢見ているのです。本書はまさに国語教師を文学の旅へと誘う道案内の一冊としてお薦めします。

漢字指導、文学研究について、ご紹介されている本や記念館をもっと調べてみたくなりました。
今回の記事で皆さんは何を感じられたでしょうか?
今後もこくごスタジオでは、全国の先生からのおすすめの本を紹介していきます。
次回もお楽しみに!!

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