
2024.5.15
教材探検隊
今回の「教材探検隊」は、東京書籍の小学5年生の新教材「インターネットは冒険だ」を取り上げます。インターネットを利用することの楽しさの裏側に潜む危険性とその対処の仕方について述べられた文章です。私たちはネット上の情報にどのように接していけばよいのでしょうか。筆者の法政大学教授 藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)先生にお話しいただきました。
パソコンやタブレット端末から様々な情報やニュースに気軽に触れることができるインターネットですが、フェイクニュースのような負の側面が世界的に大きな問題となっています。子供たちの思考力や表現力を引き出すためには、ネット情報をどのように扱えばよいのでしょうか。
インターネットに接続できるパソコンやタブレットの整備が学校で進んでいますが、ネット情報をどのように授業で扱っているでしょうか。情報活用能力の育成が重視されていますが、その材料となる情報やニュースそのものについてはあまり注意を払っていない、もしくはどう注意すべきか分からないという声も聞きます。
これは、料理に例えるなら調理方法にはこだわるものの、食材には意識が向いていない状況と言えるでしょう。調理をどんなに工夫しても、食材が腐っていればおいしく食べることはできないし、知らずに食べればお腹を壊してしまうかもしれません。
2016年のアメリカ大統領選挙でフェイクニュースという言葉が広く知られるようになり、災害時におけるソーシャルメディアの偽・誤情報の拡散が社会問題となっています。ネットを使う誰もがフェイクニュースや陰謀論に接する可能性があります。つまり腐った食材を選んでしまう可能性があるということです。
まず、インターネットは誰でも情報発信できます。これが新聞やテレビと最も異なる点です。専門家やスポーツ選手の発信を直接知ることができますが、嘘をつく人もいるし、騙そうとする人もいます。社会を混乱させたい国や組織による影響工作も行われており、皆さんの予想以上に危険な世界です。
ネット情報が届く仕組みにも問題があります。検索サービスや動画サイトといったプラットフォームは正しさを担保しないということです。
私たちがネットから情報を得るときにはプラットフォームを頼っています。「第16回メディアに関する全国世論調査」(新聞通信調査会)によるとネットでニュースを見るときには、Yahoo!などのポータルサイト81.7%、SNS37.9%で、新聞社やテレビ局の公式サイトは14.6%しかありません。
これらのプラットフォームは巨大スーパーのようなものだと考えられますが、スーパーと最も異なるのはニュースや情報に責任を持たないことです。「検索結果の最初のほうに出てきたから」「『いいね数』が多いから」などは、何ら信頼を担保していません。
腐ったものを売っていればスーパーは信頼を失いますが、プラットフォームは責任を取ることありません。むしろフェイクニュースでお金を儲けてすらいます。ネットではアテンション・エコノミーと呼ばれ、面白さや過激さが収入につながるため、正確な情報は届きにくくなっています。
このような状況がありながら、情報の発信者を意識している人はそれほど多くありません。同調査によるとネットでニュースを見るときに
さらにネットでは、一人一人に異なる情報が届きます。それは、アルゴリズムと呼ばれる情報が届く仕組みが原因です。このアルゴリズムによって、自分の興味がある情報に囲まれるフィルターバブルという現象が起こり、フェイクニュースや陰謀論に触れやすくなる危険性が高まります。
科学雑誌Nature(ネイチャー)に、「ニュースが偽なのかを調べるために検索すると、偽のほうが正しいと信じてしまう確率が高い」という研究結果が掲載されました(注)。自分で調べれば調べるほど、フェイクニュースや陰謀論に触れる機会が多くなり、事実を紹介したニュースを疑ってしまうということが起き得るのです。
フェイクニュースに対して個人のリテラシーを高めようという動きが強まっていますが、もはや個人が対抗できる状況にはありません。そのため授業では情報の真偽や正しさを求めるよりも、仕組みを理解したうえで情報を扱うことが重要になります。子供たちといっしょにワークシートを使いながらインターネットの情報について確かめてみましょう。
ネット情報を調べるときには、発信者は誰なのか、連絡先が明記されているか、情報源は何か、を確認しましょう。
次に隣の人や別のグループと相互確認することでアルゴリズムの影響を確認します。同じテーマを調べても異なる情報が表示されている可能性があります。
時間があれば、ネットだけでなく図書館を利用して新聞や本など他の媒体で調べてみることも大切です。
料理で食材を意識するように、授業で扱うネット情報も意識するようにすることで、思考力や表現力をより引き出せる環境が整うはずです。
注^:Aslett, Kevin, et al. "Online searches to evaluate misinformation can increase its perceived veracity." Nature 625.7995 (2024): 548-556.
藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
1973年生まれ。法政大学社会学部メディア社会学科教授・ジャーナリスト。著書に「ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか」(光文社)、編著に「フェイクニュースの生態系」(青弓社)など。