
2024.5.8
新教科書特集
中学校の新教科書特集、第2回で取り上げるのは、いわば教科書の「顔」である表紙です。表紙絵をご制作いただいた、イラストレーターの中村至宏さんに、制作過程や日頃のご活動についてインタビューしました。
―― まずは、ご自身の活動についてお伺いします。イラストレーターとしての活動のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
もともと、大学卒業後は絵画を制作していて、ギャラリーでの展示などをしていました。その活動を見た編集者のかたから小説の装丁の依頼が来て、それが売れたことをきっかけにイラストの仕事が増えてきました。
絵画は自分のコンセプトやテーマを表現するかたちですが、イラストには何かを伝えるコミュニケーションという側面があると思います。書籍の装丁なら本の内容を、広告なら商品の魅力を、どうすれば伝えられるかを考えながら描いています。
―― 制作のうえでのこだわりはありますか?
「過ぎていく時間への哀惜」が制作のテーマです。世界とか宇宙とかは、新陳代謝を繰り返しながら維持形成されていて、その現象の一部として自分たちが存在している、という意識が自分の根底にはあります。『方丈記』の「行く河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。」という、河は絶えず流れているけれど、水は常に違う水、というイメージです。そういう明るさと寂しさとが内包されている感じが、イラストにも出ているのではないかと思います。
―― 国語科との接点が見つかりましたね! 今回の教科書の表紙絵のご制作について、お声がけさせていただいたときはどのようにお感じになりましたか?
シンプルにうれしかったです。教科書って、人生の数年間しか使わないもので、強烈に思い出として残るものだから、うれしいなと思いました。
―― そう言っていただけて、私たちもうれしいです。各学年のコンセプトはどのようなものでしょうか?
1年生は冬から春になって、風が直接肌に触れて気持ちよいと感じる、新しい季節みたいなことを意識しました。2年生は太陽がじりじりと熱くて、広い水平線まで道が続いていて、どこへでも行けそう、という広がりのあるイメージです。3年生は日が暮れてきて寂しい感じもありつつ、友達と夢中で過ごして、いつのまにか時間がたっていたというような、そういうイメージで描きました。
中学校「新編 新しい国語」表紙絵(上から1年、2年、3年)
―― 3学年で、時間や季節の移ろいが感じられますね。そのイメージは、どのように広げていったのでしょうか。
今回は表紙絵に加え、教科書の1ページ目となる巻頭詩の絵も制作したので、まずは巻頭詩を読みました。巻頭詩は、みんなが持っている普遍的な心象風景というイメージで、自然を描きたいなと思いました。そこから「風」というテーマを思い浮かべて、風を感じるのはどんな場所か、どんな場面か、とイメージを膨らませていきました。
2年 巻頭詩「未来へ」
―― 今回の教科書では、表紙と巻頭詩、そして扉ページの絵もご制作いただきました。教科書をめくっていくと、物語性が感じられる作りになりましたね。
2年 本扉
2年 単元扉
―― ちなみに、中村さんの好きな教科は何でしたか?
国語と美術ですね。国語は小説が好きで、宮沢賢治とか夏目漱石とかが印象に残っています。読書というと、中学生のときは赤川次郎さんの探偵ものをたくさん読んだ覚えがありますね。今でも小説の装丁の仕事では、送ってもらった原稿を読んで、物語のストーリーや登場人物の性格から絵のイメージを膨らませていく作業が楽しいです。
―― 中学生の頃、将来の夢はありましたか?
絵を描くのは好きだったんですが、特に何になりたいということはなかったですね。もともとゲームが好きで、デザインとかプログラミングとか、ゲーム制作に関することを専門学校で学んだのですが、中でもやっぱり絵がいいなと思って。絵の勉強は、18歳でゼロから始めたんです。だから、中学生のときにやりたいことがなくても、のちのち出てくると思うからあまり心配しなくてもいいし、何かを始めるのに遅いということはないと思います。
―― 最後に、絵を描いていて、いちばんうれしい瞬間を教えてください。
やはり、感想をもらえることですね。本の表紙の場合は、絵を見て買ったという声を見聞きすると、うれしいなと思います。本を手に取ってもらうために表紙があるので、「絵のおかげで本が届いた」というのは、いいなと思います。
―― この教科書も、「この表紙だからだいじにしたい」と思ってもらえたら、私たちもうれしいです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
(聞き手:国語編集部)
中村至宏(なかむら・ゆきひろ)
画家、イラストレーター。1983年生まれ。奈良県出身。書籍の装画や挿絵、広告、CDジャケットのイラストレーションなどを制作。