
2024.4.10
教材探検隊
第2回目となった「教材探検隊」! 今回は1年生の教材「私のタンポポ研究」を取り上げます。筆者といっしょにタンポポの観察に行ってきました。
「私のタンポポ研究」は植物学者の保谷彰彦さんによる文章で、東京書籍の中学1年生の教科書に掲載されています。コンクリートの隙間でも生きていける外来種のセイヨウタンポポは、日本のタンポポとは異なり、単独で種子を残すという繁殖方法を持つこともあり、里山だけでなく、都市部へも広がることができました。そして、日本の都市部に広がっているのはセイヨウタンポポだと、これまで思われていました。しかし、広がっていたのはセイヨウタンポポではなく、日本のタンポポとセイヨウタンポポから生まれた雑種タンポポだというのです。セイヨウタンポポではなく、雑種タンポポが増えた理由を、実験を繰り返して明らかにしていく説明文です。
今回は著者の保谷さんが拠点としている東京都八王子市の大学セミナーハウスに行き、タンポポの観察をしてきました。意外なことに、日本は世界有数のタンポポの生育地のようです。そんな「タンポポの国」の足もとに広がる魅力と、ひそかに忍び寄る魔の手―― 雑種タンポポの恐ろしさについて、紹介していただきました。
観察を始めると、早速タンポポを見つけることができました。
これは日本在来のタンポポ、カントウタンポポのようです。名前のとおり関東地方を中心に生育しているタンポポです。日本のタンポポと雑種タンポポを見分けるこつを教えてもらいました。まずは、花の根元にある総苞片という緑色の部分がくっついている(閉じている)かどうかを見ること。
ここに注目してみると、このタンポポの総苞片は、確かにぴったりとくっついています。
花だけでなく、つぼみからも総苞片がくっついているのが分かる。
ほかにも見分けるポイントとして、花の色、葉の色や形、総苞片の色などを教えてもらいました。日本のタンポポの花は、淡い黄色で、爽やかな色をしています。総苞片の色も淡く、保谷さんは「たおやかな色」と表現していました。葉の形は切れ込みが浅く、柔らかい雰囲気でした。この写真だけだと分かりづらいかもしれませんが、後で見た雑種タンポポと比べると確かに違っているのが分かります。
日本のタンポポの特徴を一つ一つ、丁寧に教えてもらいました。
そうこうしていると蜂が花にやってきました。日本のタンポポは虫を通して、花粉をやり取りし、数を増やします。このように有性生殖で増えるのは、タンポポの中では珍しいようです。セイヨウタンポポや雑種タンポポのように、花粉のやり取りをせず、単独で種子を作る無性生殖のほうが、タンポポの中では一般的のよう。
続いてはコンクリートの隙間に咲いていたこちらのタンポポ。
これは雑種タンポポとのこと。単独でも増えていけるので、こういったコンクリートの隙間でも、セイヨウタンポポや雑種タンポポは生きて、そして子孫を残していけるんですね。セイヨウタンポポか雑種タンポポかは、遺伝的に調べないと分からないということですが、都内では98%が雑種タンポポだったという調査もあり、多くの都市部ではほぼ雑種タンポポだと思っていいみたいです。さて、先ほど教えてもらったように総苞片を見てみると…
確かに反っています。ちょうど先ほどの日本のタンポポが隣に咲いているので、違いを見比べながら確かめます。写真では分かりにくいかもしれませんが、葉の色も少し濃く見えます。次のタンポポを探します。
次はこれ。「日本のタンポポですね」と保谷さん。
保谷さんから、「タンポポの写真を撮るときには、総苞片が見えるような角度で写真を撮ると、後から見返すときにもどんなタンポポだったかが振り返りやすい」というアドバイスをいただきました。横から写真を撮るとバックに景色も入り、いい写真が撮れるみたいです。スマホで撮るときには、レンズのあるほうを下にすると、より総苞片が見えやすくなるとのこと。早速実践してみます。
どうでしょう! 少しそれっぽい写真になった気がしませんか。皆さんも写真を撮る際にはぜひ試してみてください。写真自体のクオリティが上がっているだけでなく、総苞片の形状や色などの特徴が見返しやすい写真にもなっています。この写真のタンポポも総苞片がくっついていて、日本のタンポポだということがよく分かりますね。
どんどんタンポポを見ていきます。ちょっと待っててとルーペを持ってきてくれました。膝をついてかがみ込み、タンポポとじっくり向き合います。
ルーペをお借りして見てみると、日本のタンポポの総苞片の周りにはもしゃもしゃとした毛があります。これも一つの特徴だとか。実は保谷さん、「毛」に関する本も執筆されるほど、毛にはうるさいらしいです(笑)。
次は、雑種タンポポもルーペを使って見ていきます。
ルーペを使うと思ったよりもよく見えて、びっくり。
これは花粉のあまりない個体だということで、めしべのY字がつるつるとしています。一方、すぐそばの別の雑種タンポポは、めしべにつぶつぶと花粉がついています。どちらも雑種タンポポではあるものの、異なる特徴を持っているようでした。
ここで疑問が。花粉いらずの無性生殖で増えるのに、花粉がある…? そう、これが雑種タンポポの生まれる理由です。ふだんはひとりでに増える雑種タンポポやセイヨウタンポポですが、たまに花粉を介して増えることがあるようです。その花粉が日本のタンポポに付いてしまい、雑種タンポポが生まれるというわけです。さらに、雑種タンポポやセイヨウタンポポの花粉は、日本のタンポポに受粉して雑種タンポポを作るだけでなく、日本のタンポポの繁殖を邪魔して、種子を実りにくくするという悪い影響を与えることが分かっています。これらは、繁殖干渉と呼ばれる問題で、冒頭に話した魔の手の正体でもあります。日本のタンポポの中にいちど入り込んでしまうと後には戻れない、とても深刻な問題を引き起こす可能性があるということでした。
次の花はこちら。さて、これはどんなタンポポでしょうか。
花はタンポポにそっくりだけど…?
タンポポに似ていますが、ノゲシという別の花でした。花は似ているものの、茎が枝分かれしていたり高さがあったり、違う点がいくつもあります。ほかにもタンポポのそっくりさんは多くいるようです。どうやって見分けたらいいのかを教えてもらいます。
背の高さが全然違う!
タンポポの特徴として、花をつける茎が地面から伸び、枝分かれせずに一つの頭花(一つの花に見える「小花」の集まり)をつけるということがあるようです。ほかには、葉を触るのも一つの方法のようです。タンポポの葉には毛が生えていないため、しっとりした感じがしますが、ほかの草花だと毛が生えているため、ざらざらとしているものもあります。触ってみると全然違って、一“触”瞭然です。これなら近くにタンポポ博士がいなくても、簡単に見分けることができます。
そのほかにも、さまざまなタンポポと出会いました。
どちらもカントウタンポポ。左は雑種タンポポっぽい色の濃くぎざぎざした葉。
右はThe 日本のタンポポの薄く丸っぽい葉。葉の中心のつぼみで判別できるらしい。
斜面にぽつんと生えていた雑種タンポポ。左の花は異様に大きい。
カントウタンポポの中には、「ウスジロカントウタンポポ」と呼ばれる少し白い花の個体も。
タンポポを観察するときのポイントが少しは伝わったでしょうか。実際に観察してみると、タンポポの違いに気がつくと思います。例えば、バスの待ち時間など、本を読むには短い時間でも、近くにタンポポが咲いていたら観察のチャンスです。まずは花の裏の総苞片を見て、足もとに広がるタンポポの国を訪ねてみてください。
(取材:2024年3月)
取材協力:保谷彰彦(ほや・あきひこ)
植物学者。タンポポを中心にさまざまな植物についての書籍を執筆している。著書に「わたしのタンポポ研究」「タンポポハンドブック」「有毒!注意!危険植物大図鑑」「生きもの毛事典」など。