多層指導モデルMIM① 先回りの支援で学びに自信を

2022.12.21

多層指導モデルMIM①

先回りの支援で
学びに自信を

海津亜希子(明治学院大学教授)

みなさんはMIM(ミム)という言葉をご存じですか? 特別支援教育の観点から注目されている学習モデルであり、近年では学校教育に取り入れる自治体も増えています。本記事では、MIMの開発者である海津亜希子(かいづあきこ)先生に、そのポイントを紹介していただきました。

※当記事は、「ひろがれ国語2022年冬号」(2022年1月発行)の記事を再構成したものです。

MIMって何?

みなさんはMIM(ミム)を知っていらっしゃいますか。おそらく多くの方々は初めて耳にされたのではないでしょうか。ただ、図1のような紙面はご覧になったことがある方も多いかと思います。

図1 図1:MIMの指導法の一部(令和2年度「新しい国語」p.60、東京書籍)

実は、ここで用いられている指導法の一部がMIMと関係があるのです。そこで、まずはMIMについてお話をしたいと思います。

筆者はこれまでLD(学習障害)のあるお子さんとの学びを通じて研究を行ってきました。LDは、知的発達水準は平均域かそれ以上でありながらも、認知の特性から生じる学習面での得手不得手の差が大きく、学習面に特異な困難さを呈します。

そして、LDの子どもの多くは、気づかれたときには既に学校の中で相当につまずきが蓄積している場合も少なくありません。いわば「子どもがつまずくのを待ち、その段になってはじめて、その子に特化した、分かりやすい指導や支援がなされる。」といっても過言ではないのです。

深刻なのは、こうした子どもたちは、LDの主要因である学習面でのつまずきだけでなく、「自分はばかだ。何をやってもだめ。」といった過剰な自己評価の低下や、「どうせできない。」といったモティベーションの低下を伴い、不登校の状態に陥るなど、いわゆる二次的な障害をも負ってしまうことです。二次的な障害は、周囲の正しい理解や適切な支援により防ぐことも低減することもできます。つまずくまで待つのではなく、「つまずかせないための先回りの支援」ができないか。こうした思いがMIM開発の一つの源泉になっています。


多層指導モデルMIMとは

MIMは、子どもの多様なニーズに寄り添いつつ楽しい学びを届けていく枠組です(図2)。

図2 図2:通常の学級における多層指導モデルMIM

まずは1stステージ指導において、全ての子どもに対し、通常の学級内で効果的な授業を行っていきます。それでも習得が難しかった子どもについては、2ndステージ指導として、補足的な指導や配慮を行います。それでもなお、習得が難しい子どもに対しては、3rdステージ指導において、集中的に、柔軟な形態による、より個に特化した指導を行っていきます。

どのような子どもが2ndステージ指導、3rdステージ指導を必要とするかについては、教師による見立てとともに、客観的なアセスメント(実態把握)によって判断し、確実に子どものニーズを捉え、対応していきます(図3)。すなわち、実態把握の結果、ニーズのある子どもは、誰一人取りこぼすことなく、しっかりと科学的根拠に基づいた指導を行っていくことを目指しています。

図3 図3:MIMにおけるアセスメント「めざせよみめいじん」


教育と科学との融合

一度の授業で子どもたち全員に内容を習得させることは至難の業です。そこでまずは1stステージ指導において効果的な授業を展開しながら、「分かるはず」の子どもには、しっかり「分かる」ようにしていきます。ここでいう効果的な授業とは、先生方の経験の中で培われた根拠(エビデンス)に、科学的に実証されたエビデンスを加えていくことを指します。

研究において特定の要素を盛り込んだ指導とそうでない指導とを比較し、そこに違い、つまり効果の差が見出されれば、そうした知見を授業に積極的に導入し、指導効果をあげていきます。

先の図1で見られたように、表記の特徴をドット(丸印)や動作(手のイラスト)で表した指導をMIMの枠組で用いたところ、そうした指導がなされなかった群と比較して、異なる学力層においても読みの力に差が見られました(海津ら、2008)。


全ての子どもが分かりやすい指導法へ

実は図1のような指導法は、もともとLDの子どもに用いていた指導法でした。小学校中学年になって「がっきゅう」を「がきう」と書いてしまう子。文字と音とが対応しない特殊音節の理解を、どう子どもたちに促すか……。これは、こうした子どもたちとのやり取りを通じてできた指導法なのです。子どもの間違い方に着目し、どういう教え方だと理解しやすいかなど工夫したことで、数年間、特殊音節の読み書きが難しかった子どもが数か月で習得していく様子を目の当たりにしました。

そのときこう思ったのです。子どもがつまずいてはじめて、間違い方や認知特性等を考慮した指導、つまり「授業で習得しきれなかった子どもにも分かりやすく教える方法」をとるのであれば、それをつまずいてからではなく、つまずかせないための指導法として、子どもたちがはじめに学ぶ場面で用いることができないか……。

相談室でのLDの子どもとの学びの時間で実践していたことが、今や教科書という多くの子どもが手にする媒体を通して、全ての子どもたちの学びやすさに貢献できているとしたら、これほど嬉しいことはありません。教育と科学とが手を携えることで、今後教室内で笑顔を見せてくれる子どもがますます増えてくることを願っています。

※多層指導モデルMIMのWebサイトはこちら


【文献】「多層指導モデルMIM読みのアセスメント・指導パッケージ」(海津亜希子、2010年、学研教育みらい)、「通常の学級における多層指導モデル(MIM)の効果―小学1年生に対する特殊音節表記の読み書きの指導を通じて―」(海津亜希子・田沼実畝・平木こゆみ・伊藤由美・Sharon Vaughn、2008年、「教育心理学研究」56号、534~547ページ)

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